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コラム

2014-08-01 18:49 追加

ワールドリーグ2014日本の考察  全日本のディグに見る守りのバレーの限界

2014年のワールドリーグの全日本男子チームについて「ディグ」に焦点を当てた考察。

全日本代表 男子

はじめに

2014年のワールドリーグの全日本男子チームについて、データを少し提供しつつ考察してみたいと思います。テーマは、「ディグ」についてです。 全日本男子チームの南部監督は就任会見で、以下にあるように日本の長所としての守備を指摘しています。

日本の世界に誇れる長所は守りの部分、レシーブ、サーブレシーブ、ディグ。個々の部分をもう一度世界一にしたい。そして、ただ守りがよければ相手に勝てるかというとそうではない。攻めなければ勝てない。私自身が強く思っている信念は、攻防一体。守り、守りから攻め、この辺の技術を追求してチームを作りたい。

この守備の部分としてディグがどの程度機能していたのか?というデータを見ていきたいと思います。

データの見方

どのようにして「ディグがどの程度機能していたのか?」を評価するのかということについては、ワールドリーグ全体の中での相対的な位置づけを見ていこうと思います。

以下の図1に2009年から2013年までのワールドリーグの全試合における1セット当たりのディグ(Digs+Receptions)とブロック得点のデータを示します。

z1

Digsは良いディグを、Receptionsは良いディグではないが継続可能なディグの本数になるので、2つ合わせてとりあえず上がったディグ数といえます。図では右にいくほどこのディグ数が多く、上にいくほどブロック得点数が多くなります。

図中の破線は、右からこのディグの上位25%、50%、下位25%の値になります。この3つのラインを基準に、例えば上位25%ラインより右側にデータがあればかなり良い成績といえますし、下位25%ラインよりも左側にデータがあればかなり悪い成績といえます。また、上位下位25%のラインの内側にデータがあれば、平均前後の成績といえます。

この図1のデータをベースにして、日本のディグがどのあたりに位置づけられるのだろうか?ということを見てみたいと思います。日本のデータは3人の監督の就任期間ごとに、以下の3つのパターンで整理します。

・2014年(12試合)
・2013年(8試合 ※2試合は帳票データの欠損により除く)
・2011-2012年(24試合)

全日本男子チームのディグデータ

それでは、全日本男子チームのディグデータを見ていきます。まずは直近の2014年のデータを以下の図2-1に示します。

z2_1

赤いが日本の試合のデータになります。ほとんどの試合でディグは上位25%の右側にあることから、ディグは非常に優れているといえます。

続いて、2013年のデータを以下の図2-2に示します。

z2_2

2013年はデータが少ないですが、ここでもほとんどの試合でディグは上位25%の右側にあることから、ディグは非常に優れているといえます。

最後に、2011-2012年のデータを以下の図2-3に示します。

z2_3

こちらは平均前後の成績が多くなっています。平均並みの成績とはいえますが、2013年と2014年と比べれば少し見劣りはします。

以上のデータより、2014年のワールドリーグにおいて、全日本男子チームのディグは、近年のワールドリーグの中でもかなり良い成績を残していたといえます。この成績は2014年に入って急に良くなったものではなく、2013年にも同様の傾向が見られます。 2011-2012年のディグの成績は少し劣りますが、これは組分け(Pool)の影響も大きいのではないかと思います。2013年から組分けの方式が変わり、世界ランキングの高いチームとの対戦が減ったことも、成績が向上したことに関係していると思います。

以上の傾向より全日本男子、特に2014年のチームのディグは、ワールドリーグ全体から見てもかなり優れた成績といえます。過去のデータと比較すると、今年になって急によくなったものというよりは、以前から続いている日本の強みといえるのではないかと思います。これをもって日本の長所であるといっても異論は無いと思います。

問題はこれだけのディグを上げておきながら勝てないということです。

ディグと勝敗

参考までに2012年と2013年の大会を制したポーランドとロシアのディグのデータを以下の図3-1と図3-2に示します。

z3_1z3_2

青いがそれぞれロシアとポーランドの試合のデータになります。優勝チームではありますが、ディグは平均並みといった成績です。この2チームを見る限り、ディグが優勝の原動力となったとはいえなさそうです。

手前味噌の引用で申し訳ないのですが、ディグと勝敗の関係についてはCoaching & Playing Volleyball 93号で分析したのですが、ディグの本数が増えることによってチームが勝利する確率への影響はごく弱いものでした。以下に図を引用します。

z4
これは今回と同じ2009年から2013年までのワールドリーグのデータを使って、ブロック得点とディグの値からチームを分類し勝率を比較したものです。ブロック得点が増えることで勝率は顕著に上昇しますが、ディグが増えてもそれほど上昇しないことを確認できると思います。

「拾って繋いで」というバレーは見る人の心を打つかもしれませんが(少なくとも私はそういうバレーが好きです)、それが勝利へと結びつく要因かといわれると、残念ながらその力は弱いようです。

まとめ

今回のデータより、全日本男子チームのディグはワールドリーグ全体で見てもかなり優れたものであるといって良いと思います。2014年は1勝しかできなかったわけですが、負けが込んでくると全てがダメで機能していなかった気になってしまいます。しかし、ディグに関してはきちんと機能していたという事実を確認しておくべきだと思います。勝った、負けたという結果ではなく、どこが良くてどこが悪かったかという内容の吟味が今後のために重要ではないかと思います。

また、今回のデータは冒頭の南部監督の言葉にもあるように、「ただ守りがよければ相手に勝てるかというとそうではない」ということを証明された形になります。ディグの本数自体が増えることはチームにとってプラスですが、それがなぜ勝利につながらないのでしょうか?可能性としては以下のようなものが考えられます。

  • ディグからのトランジションアタックを得点できていない。
  • ディグからのトランジションアタックという局面以外で差をつけられてしまっている。

過去のデータを見ても日本のディグに関しては悪い成績ではないことから、上記のような問題は、日本チームの積年の課題であるといって良いかもしれません。こうした問題を、南部監督が今後どのように改善していくのか期待していたいと思います。

引用記事・文献

  • 南部正司氏、全日本男子監督就任記者会見(http://vbw.jp/5382/
  • データから見るバレーボール 第9回 良いブロックとは, Coaching & Playing Volleyball, 93号, 32-35

文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる !! 世界標準のバレーボール(ジャパンライム)にデータ解析として参加
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。

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