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コラム

2013-02-12 20:56 追加

ミーハー排球道場 第3回ブロック 【その1】

ミーハーバレーファンの「こんなことがわからない!」にお答えするコーナー。今回はブロック。

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国際大会をテレビで見てバレーファンになった方や、バレーマンガを読んでバレーに興味を持った方の「こんなことがわからない!」にお答えするコーナーです。
バレーボールのルールや戦術について書かれた『バレーペディア』(日本バレー ボール学会編・日本文化出版)の編集・執筆者の一人である渡辺寿規先生がお答 えします。渡辺先生はツイッターの#vabotterでつぶやいています。第3回は「ブロック【その1】」です。

「少年ジャンプで連載中のバレー漫画『ハイキュー!!』に、【リードブロック】【コミットブロック】【デディケートシフト】などのブロック用語が出てきましたが、いったいどのようなブロックなのでしょうか? また、それぞれのメリット・デメリットなどを教えて下さい。」

ハイキュー!! 1 2 3 4 5 (ジャンプコミックス)

◎ ブロックはわかりにくい?!

バレーボールの試合を見る上で、プレー経験のないファンの方がわかりにくいと感じるプレーは、ブロックではないかと思います。なぜなら、ボールの動きだけを追いかけながら試合を見ていると、ブロッカーのプレー動作は視野に入ってこないからです。

一方、プレー経験者や指導者の間においても、戦術理解があまり浸透していないのがブロックだと思います。その意味で、話題のバレー漫画『ハイキュー!!』にこうしたブロック用語が堂々と登場し、選手がブロックの際に何を考え、何を狙っているのか? そしてその結果何が起こるのか? … その様子が克明に描かれているのは、何とも嬉しい限りです。

そう言えば、伝説のバレー漫画『アタックNo.1』のあの主題歌の中に、「ブロック」という用語は登場しませんねぇ…。

このように、日本のバレー界において軽視されてきたブロックに関する話題ですので、ご質問内容とは少し離れて、もっと基本的なところから解説していきたいと思います。

 

◎ ブロックはオフェンス? それともディフェンス?

そもそもブロックとは、オフェンス(攻撃)に属するプレーでしょうか? それとも、ディフェンス(守備)に属するプレーでしょうか? … ブロックに関するデータが現状では「ブロック決定本数」しかなく、ブロックで直接得点するシーンばかりに注目が集まるためオフェンスであると誤解されがちですが、本来ブロックは、相手にスパイクを決めさせないためにネット際の最前線で自コートを守るという、まさにディフェンスそのものです。伝統的にディフェンスが重視されてきた日本のバレー界にあって、ブロック戦術が指導の現場でもいまだに重要視されていないというのは、何とも不思議な現象です。

サッカー・バスケット・ハンドボールなど、複数の選手同士で対戦する球技においては一般的に、【マン・ツー・マン】と【ゾーン】の2つの対照的なディフェンス戦術が存在します。バレーボールにおいても同様に、ブロック戦術を【マン・ツー・マン】と【ゾーン】の2種類に分けて考えることができます。

◎ 【マン・ツー・マン】ブロック戦術とは?

【マン・ツー・マン】は、相手の特定の選手を「1対1」でマークするディフェンス戦術であり、ブロック戦術においては、相手のアタッカー1人に対して自チームのブロッカー1人が対応してブロックに跳ぶ戦術です。マークする相手のアタッカーの助走動作を観察しながら「アタッカーの踏み切り動作と同じタイミングでブロックに跳ぶ」ことが可能であり、こうしたプレー動作を【コミット・ブロック】と呼びます。「コミット(commit)」は「(何かを)責任持って遂行する(と公に表明する)」の意味であり、【コミット・ブロック】はマークする相手のアタッカーを責任持って「自分1人で封じ込める」即ち、相手のスパイクを「シャット・アウトすること」が要求されるプレーです。ブロッカーの個人能力を最大限に発揮できるため、ブロック戦術を各選手の個人能力だけに頼るなら、【マン・ツー・マン】は最強の戦術と言えます。

ところが【マン・ツー・マン】には、大きな落とし穴があります。相手のアタッカーの助走動作に依存してブロッカーが動くため、例えば自チームのサーブから始まるラリーで、図1のように、相手のポジション2(前衛ライト)のアタッカーとポジション3(前衛センター)のアタッカーが攻撃するスロット(※1)を左右入れ替えた場合、自チームのブロッカーも場所を入れ替える必要が生じます。

(攻撃側)赤2・青3・紫4の各アタッカーを、それぞれ(守備側)赤[2]・青[3]・紫[4]のブロッカーが【マン・ツー・マン】でマークする場合、赤2・青3のアタッカーが矢印のように助走動作を行うと、赤[2]・青[3]のブロッカー同士が左右入れ替わる必要が生じる(クリックすると図を拡大できます)

(クリックすると図を拡大できます)

ネットに張り付いたまま横一列に並んで構えるブロッカー3人が、お互いに左右入れ替わるのは容易ではなく、相手のアタッカーが攻撃するスロットを入れ替えたのを確認した時点で、ブロッカー同士がお互いにマークを受け渡して対応するか、もしくは横一列には並ばずに、あらかじめ1人のブロッカーがネットから少し離れた状態で構え、ネットに張り付くもう1人のブロッカーの背後を通ってスムーズに移動し、場所を入れ替わるなどの工夫が必要となります。

〔先日開かれた『春の高校バレー』男子準決勝より〕

1:09頃〜のラリーに注目。手前コートの大村工業が行っているブロックが【マン・ツー・マン】

こうした工夫を行ってもなお、致命的な落とし穴が【マン・ツー・マン】には存在します。それは、ブロッカーの最大人数はルール上3人に制約されるのに対し、相手のアタッカーの最大人数は3人に制約されない、という点です。バック・アタックを絡めれば、アタッカーは4人ないしは5人まで増やすことができます。常に4人以上のアタッカーが攻撃に参加するトップ・レベルにおいては、アタック(攻撃)側がブロック(守備)側に対して常に数的優位性を維持することになり、アイスホッケーで言うところのパワー・プレー(※2)の状態が試合を通じて続くわけです。その状況下では、【マン・ツー・マン】はノー・マークの状態となるアタッカーを自動的に作ってしまうため、トップ・レベルのバレーボールにおいて【マン・ツー・マン】のブロック戦術がみられることは、まず滅多にありません。【マン・ツー・マン】という言葉がテレビ中継の解説から聞こえてきたら、その解説者は疑ってかかりましょう。

◎ 【ゾーン】ブロック戦術とは?

(クリックすると図を拡大できます)

(クリックすると図を拡大できます)

というわけで、現在のトップ・レベルのバレーボールにおいては、ブロックは【ゾーン】戦術が基本となります。これは、自チームの守るべきゾーンを分担するディフェンス戦術であり、9つのスロット(※1)を3人のブロッカーで分担しながら対応することになります。例えば図2のように、レフト・ブロッカーがスロットC〜1まで、センター・ブロッカーがスロットB〜4まで、ライト・ブロッカーがスロット2〜5まで、というように、各ブロッカーが分担するスロット幅(=ゾーン)をあらかじめ決めてブロックに跳びます。自分が分担するゾーンから攻撃を仕掛けてくるアタッカーが1人ならば、【マン・ツー・マン】同様に【コミット・ブロック】で対応できますが、上述のとおりトップ・レベルでは4人以上のアタッカーが常に存在するため、2人以上のアタッカーが攻撃参加するゾーンが少なくとも1箇所は生じます。【コミット・ブロック】ではもう1人のアタッカーをノー・マークにするリスクが生じ、【マン・ツー・マン】と同じ落とし穴に陥ります。

これを回避するには、相手のアタッカーの助走動作に合わせてブロックに跳ぶのではなく、実際にボールを打つアタッカーを確認してブロックに跳ぶことが要求されます。アタッカーではなく、セットされたボールの行方に反応すれば、実際にボールを打つアタッカーに対してブロックに跳ぶことが可能であり、こうしたプレー動作を【リード・ブロック】と呼びます。

「リード(read)」の意味を「どこにセットされるかを〝読む〟」と解説されているケースがありますが、これは誤解を招きやすい表現であり注意が必要です。日本語の〝読む〟には「相手の手の内を〝読む〟」「(囲碁や将棋で)数手先を〝読む〟」などの表現に代表されるように、「文字で書かれていないものや、目に見えないものを読み取る」「これから起こることを予想する」といったニュアンスが含まれるため、「どこにセットされるかを〝推測する〟」という意味に受け取られかねません。外れる可能性のある〝推測〟を意味するのではなく、セット・アップを「しっかり確認して反応する(= “see and respond” )」からこそ、相手にノー・マークでスパイクを打ち込まれるリスクを回避できるのです。

セット・アップを確認するまで動き出せないため、「アタッカーの踏み切り動作と同じタイミングでブロックに跳ぶ」ことが難しく、相手のアタッカーに「1対1」で対抗するには不利な状況を強いられます。その代わり、分担するゾーンの決め方次第では、実際にボールを打つ相手のアタッカーに対して2枚ないしは3枚ブロックを高い確率で揃えることが可能です。相手のスパイクをノー・マークにするリスクを回避できるだけでなく、ブロッカー3人が相手のスパイクに対して「組織的に対抗できる」という点が、【リード・ブロック】の大きな特徴です。

◎【リード・ブロック】がもたらした、トップ・レベルの戦術変遷

アタッカーではなくセットされたボールに反応するという発想は、人数で劣るブロック(守備)側に相手のアタッカーと「3対1」で戦える数的優位性をもたらし、1990年以降【リード・ブロック】は瞬く間に世界標準となりました。それ以降、世界トップ・レベルの戦術は組織化の一途を辿り、ディフェンス面においてはブロッカー3人が組織化するだけでなく、ブロッカーとディガーとの連係を図って、相手のスパイクに対してブロック(ネット・ディフェンス)とディグ(フロア・ディフェンス)の両面で組織的に対抗するという、いわゆる【トータル・ディフェンス】の概念が定着しました。

ですから現在のバレーボールにおいては、ブロッカーのチームへの貢献度は「ブロック決定本数」では評価できないことになります。日本リーグ(※3)時代のブロック賞受賞者には、ネット上に出した両腕を振ることでブロック決定本数を稼ぐ選手がいましたが、そうしたプレーはブロッカーとディガーの連係を困難にするため、現在では推奨されません。【トータル・ディフェンス】においてブロッカーに要求されるのはシャット・アウトではなく、2枚ないしは3枚ブロックを揃えプレッシャーをかけてスパイク・ミスを誘ったり、ワン・タッチを取ってラリーを繋いだり、相手のスパイク・コースを限定したりするなどのプレーとなります。そうした「ブロック効果率」とも言うべき指標が、【リード・ブロック】の普及後20年以上もの歳月が経過した現在でも確立されていないのは、大きな問題と言えます。

そこで最近私が注目しているのが、ツイッターのフォロワーの方(@ue_gn38)が提案されていた、この指標です。

・ 「アタック決定されない率。」
(『うえの支部』http://ue-branch.tumblr.com/post/15674087233より)

上記で紹介されている「ブロック数を敢えて引いたアタック決定されない率」は、【トータル・ディフェンス】の成功率を反映する可能性があり、今後多くのデータを基にした検証が期待されます。

以上の内容をだいたい理解して頂くと、試合中の具体的な場面でのブロック戦術を考えていく土台ができあがります。ではいよいよ、『ハイキュー!!』で描かれた一場面である、音駒高校が烏野高校との練習試合で【デディケート・シフト】を敷いた意図がどこにあったのか? … この点に関して次回、じっくり迫っていきたいと思います。

文責:渡辺寿規

(※1)ネットに平行な水平座標軸を設定して1m刻みにコートを9分割し、数字や記号を用いて呼称するコート上の空間位置。主として、アタッカーがボール・ヒットする位置を呼称するのに用いられる。(『バレーペディア改訂版 Ver. 1.2』(日本文化出版)より)
slot

(※2)アイスホッケー用語で、相手チームの選手が反則を犯して退場し、相手より人数が多い状態で攻撃を仕掛けることが可能な状態を言う。

(※3)V・プレミアリーグの前身。正式名称は「全日本バレーボール選抜男女リーグ」で1967年にスタートし、1993-94年シーズンまで行われた。

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コメント

山田太郎 [Website] 2012.04.20 13:00

すごく分かり易いですね。

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